コラム

小豆島スポーティーズを訪ねて
文責:勝谷仁彦

小豆島スポーティーズとの出会い

2018年11月10日。初めて小豆島へフェリーで渡る。目的は、小豆島スポーティーズの臨時総会に出席し講演依頼を受けたことによるものだ。

思い返すと、今年の年初。香川ファイブアローズヘッドコーチの衛藤氏からメールが入った。小豆島に渡部という面白い男がいてユニフォームを作りたがっていると。衛藤氏は前バンビシャス奈良のヘッドコーチとして交流があり、非常にナイスガイで信頼できるバスケット関係者。その方からの紹介ということで一度会社まで来ていただけることになった。

2月、寒風吹き荒む中小豆島からやってきた渡部という男は、非常に熱かった。bjリーグ大阪エヴェッサにフロントで入社し、その後西宮ストークスの立ち上げ、香川ファイブアローズのフロントとbj畑を奔走していた。その後小豆島に魅力を感じ移り住んで5年になる。よくよく聞くと私の高校の一つ下の後輩で、周りからスクアドラのことを聞いてくれていた。

衿タグのメッセージ、「勝つことだけが目的では、勝負には勝てない」ここに共感をいただき、それだけで他に知り合いのメーカーがある中で選んでいただいた。そこには小豆島で活動する理念と照らし合わせたのかもしれない。

その前に小豆島とはどんな島なのか、全く知らなかった。瀬戸内に浮かぶ離島。交通手段はフェリーしかない。人口は28000人。その島が2つの町(小豆島町と土庄町)に分かれている。毎年減少の一途を辿り、主な産業はオリーブ、醤油などあるが、やはり過疎地域である。

渡部という男

彼は、プロバスケから身を引いたあとハローワーク経由で小豆島の職員となる。そんな中、町からの要請もあり総合型地域スポーツクラブを立ち上げる。幸いと言っては失礼だが、この街の問題意識は大きかった。過疎化、子供達の遊び場がない、夢中になるものがないためみんなゲームをしている。そんな街の大きな課題解決が始まった。2017年7月スポーツを通じて夢中のきっかけを作る「小豆島スポーティーズ」が結成された。

理念は夢中のきっかけづくり

その理念を具体化するものが、例えば島からプロバスケチームを作る。というものだ。ただ、これはBリーグで派遣を争いあうチームを作るという意味ではない。そのようなカテゴリー、いや概念すら今はない。ローカル(その土地)で練習し、その土地で働きながら、練習しながらトップを目指すというプロセス=これがローカルプロ。それで生活を支えるということ。

島を訪れるとよくわかる。山はトレーニング場としてはもってこいであり、練習場は冷暖房完備。多くの施設が使われずに残っている。山を開拓し遊歩道を作るだけでも体感は間違いなく鍛えられるだろう。鍛えたければ山に登り、汗をかけば海に入り、ボールに触れたければ体育館がある。それだけではなく、仕事もある。高齢化が進んだ街で電球一本届け高いところの電球交換するだけでも、おじいちゃんおばあちゃんは喜び、商売になるであろう。子供たちはプロにバスケやサッカーを習い、島が一つのチームを結成し、島外に練習試合を申し込むだろう。合宿所としてはもってこいであり、島外からこぞって合宿にやってくる可能性もある。雪が降らず温暖な気候はスケジュールを妨げない。

広がりと未来展望

そんな島には協力者が集まってくる。デザイナー、バスケ関係者、町長や議員さんまで。自然に協力者が集まり、熱い議論を重ね、それを聞きつけた主体者がまた集まる。集められたグループではなく、目的を持った主体者が集まるチームができている。みんなそのきっかけを待っていたかのように、小豆島に集まってくる。あとはその具体的手段を明確にし実践していけば、広くは日本の地域社会の問題を解決するかもしれない。こぞって、過疎化の地域が見学にくるかもしれない。そんな希望を持てるような取り組みであった。

ここに集まる人たちは、小豆島という土地から養分を頂いている。自然に触れ、草木と交わることで確実にみんな元気になっていく。ただ、それを自覚できないと、ただの宝のもちぐされでマイナスにも作用する。それが過疎化の疲弊であり、渡部氏のような島外から乗り込んできた人間が生活すると、みんながやる気が無いように感じる。何も進まない、全てが否定から入る。

「小豆島の人のために」と目的を持つと恩着せがましくなり、おそらくながら続かないだろう。しかし、「小豆島のために」となるとそれは人のためにやっているのではなく、小豆島島から受けた恩恵の壮大な恩返しになり、将来世代への恩送りになる。小豆島にとらわれると、単なる小豆島の課題解決に陥るが、この土地から受けたものを返そうとすると、それは日本中、世界中、同じような問題を共有できる。

そんな壮大な社会実験が、今始まった。

来年には法人化し、まさに公共から巣立ち、民間が公共事業を始める。

子供たちが遊ぶ公園が無いから、動く公園を作ろう!

全てが前向きで、肯定的で、未来志向の取り組みが始まった。
この島から日本が変わるかもしれない。経済やお金にしか価値の見いだせなかった日本人に一石を投じるのではないかと期待している。